「九条さん……」

十が見ている。だが、桜士は気持ちを止めることができなかった。目の前がぼやけ、胸がただ苦しい。頰を温かいものが伝っていく。

「暗号を解かなきゃいけないのに、どうしてもわからないんだ!早く助けなきゃ四月一日先生が危ないのに!解かないと……解かないと……!」

ぼやける視界の中、桜士は十がスーツのポケットに入れた暗号の書かれた紙を取り出し、折り畳まれた紙を広げる。紙の上に、ボタボタとシミができていった。

「く、九条さん、一旦落ち着きましょう。落ち着かないとわかるものもわかりません」

「うるさい!邪魔をするな!」

十が手を伸ばし、桜士は紙をまた奪われるのではと警戒する。そんな中、高い声が二人の耳に入り込む。

「本田先生、あなたはハニートラップの類で一花に近付いたわけじゃないのね。本当に一花のことを想ってくれているのね」

桜士と十の前に立っていたのは、ナタリアだった。否、ナタリアだけではない。eagleのメンバーが全員、集まっている。