私も窓に近付き、声のしているほうに視線を移す。

 そこには、毎日の恒例といった光景が広がっていた。

「氷堂君おはようっ!」

「おはようございます。」

「今日もかっこいいね!」

「ふふ、それは光栄です。ありがとうございます。」

 この会話も毎日聞いていて、耳にたこができるんじゃないかと本気で思っている。

 昇降口近くに居る女の子たちが取り囲んでいるのは、この学校で最も有名な人。

 別名“学校の王子様”と言われている、氷堂秦斗(ひょうどうかなと)君だ。

 私たちと同じ中学一年生だというのに、入学してすぐ氷堂君は有名人になった。

 何か特別な事をしているわけではない。生徒会役員でも、目立っている部活の選手というわけでもない。

 それなのに氷堂君がここまで有名なのは、きっと彼の人柄だろう。

 誰にでも優しく、分け隔てない菩薩のような性格……だってどこかで聞いた事がある。

 それに加えて成績優秀、運動神経抜群、綺麗に整った容姿も有名になっている理由の一つだろう。

「相変わらず氷堂は神対応。あんなに群がられて、ウザいとか思わないのかな。」