極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

 椅子から立ち上がって、一歩足を引く。

 もうここから出よう。じゃないと、氷堂君に変に引き止められてしまう。

 それがなんとなく分かったから、視線を逸らしたまま距離を取る。

 ――その途端、パシッという乾いた音が教室内に響き渡った。

 そしてそのまま……ぐいっと腕を引かれる。

「ひょうどう、くんっ……?」

「もう本当にやめて。湖宮さんが一人で抱え込む事じゃないんだよ、それは。」

 気付けば私は、氷堂君の腕の中に。

 暖かくて優しくて、何だか落ち着ける場所。

 それと同時に切実な声も聞こえ、今度こそ反論できなくなった。

 氷堂君は優しすぎるよ……もう聖人だよ。

 口には出さないけど、そう思ってしまう。

「湖宮さんが傷ついてるの、見てられない。俺は本当に湖宮さんを傍で支えたいって思ってる。……信じられなくても、今はいいよ。」

 氷堂君……。

 さっきよりも切なく苦しそうな声色の言葉が耳元に届いて、心臓が痛む。

 氷堂君が嘘を吐く人だとは、やっぱり思えない。

 阿辺君と氷堂君は違うんだから、比べちゃダメだ。