そんな人気者の阿辺君が私に用事なんて、一体何だろう?

 阿辺君とはこれまで全くと言っていいほど関わってこなかったから、呼ばれる理由が分からない。

 心当たりもないし、阿辺君に何かしたわけでもないはずだ。

「……今じゃないとダメなの?」

「そうなんだ。だから湖宮を貸してくれ。」

「結衣のことを物みたいに言う奴に、あたしの結衣は渡したくないんだけど?」

 ちょうど隣で私と話していた紗代ちゃんが、睨むように阿辺君に食ってかかっている。

 グルル……と、威嚇するような目つきで阿辺君を睨む紗代ちゃん。

 紗代ちゃん、何でこんな怖い目をしてるんだろう……?

 私はそんな疑問を抱いたけど、紗代ちゃんに笑顔を浮かべた。

「阿辺君、分かったよ。……紗代ちゃん、ちょっと行ってくるねっ。」

「……何かあったら、すぐに戻ってきてね。」

「うんっ! すぐ戻ってくるから!」

 不安そうな表情で見送ってくれる紗代ちゃんに心配をかけないよう、笑顔を浮かべて阿辺君と教室を出る。

 これ以上紗代ちゃんに迷惑をかけたくないし、紗代ちゃんばかりに頼りたくない。