ふぅ……何とか間に合った。

 急いで戻って着替えたからか、意外にも次の授業までの時間はあった。

 紗代ちゃんにも怪しまれずに済んだし、一件落着だろう。

 ……だけど、さっきのは落着じゃない。

 事故とはいえ、氷堂君に抱きしめられちゃった……っ。

 初めてあんな近距離で言葉も交わしたし、たくさん話をした。

 な、なんて恐れ多い事をしてしまったんだ私は……!

 自分の頭をぽかぽか殴りたいけど、ここは学校だからできない。

 ずっとそんな事ばかり考えていたからか、授業準備をして自分の席に戻った時、紗代ちゃんが不思議そうな顔を浮かべた。

「何でそんな、さっきから百面相してるの?」

「ひゃ、百面相……? 私、そんな顔してたっ?」

「うんすっごく。どうしたの、何か悩み事?」

 な、悩み事っていうか……悩みって言えば、悩みなんだろうけど……。

 正直のところ、紗代ちゃんにも言う事が躊躇われる。

 それにもし、氷堂君ファンにバレちゃったら私の命はないもん。

 氷堂君にも迷惑がかかっちゃうし、言わないほうが身のためだろう。