「榛名くんが思わせ振りだっていうなら,私だってそう……! 甚平くんの気持ち知ってて,こんな風に平気な顔してる!」



私の叫びに,甚平くんは初めてたじろいだ。



「それは違うよ,俺が……なんで,どうしてあんなやつを……! 君が庇おうとするんだ! まさか来栖さん……」



お願いだから,私の話を聞いて。

そう訴えに瞳をあげたとき。

彼も榛名くんよりずっと身の危険を感じるとても怖い瞳で私を見た。

甚平くん,あなた……

周りに向けるいつもの優しさをどこへ,どうして。

榛名くん



「だめだ,他のどんなやつでも君がいいって言うならいい。でも,あんなやつだけは! あんなやつに君を奪われるくらいなら……っ」



だけ,に……

咄嗟に,自分がなにをされようとしているのかが分かった。

されたこともないくせに。

こういうのを,本能というのかもしれない。

スローモーションのように目の前の映像が頭に流れて。

気付けば両手を網のように使って,彼を拒んでいた。

その瞬間,ゆっくりだった時間を取り戻すかのように,物凄いスピードで時の流れを感じる。



「ご,ごめん……なさい! きすは,いや……! 困ります……!」



顔まできっちりそらし,瞳が揺れた。

どうして,こんなこと……

そっと両手を取り戻して胸に置くと,彼は動かなくなってしまった。

自分のしたこと,私の反応。

全てを理解したのか,彼まで罪悪感で瞳を揺らしてしまう。

今は,どうにも出来ないわ。

私が彼の感情を揺さぶったのだもの。

状況を理解した私は,より人のいない方へと走り逃げた。

ごめんなさい,私。

やっぱり突然あなたを受け入れるなんてこと,出来そうにありません……!