これでは、どちらが病人かわかならい。実際、よく眠ったアリッサの顔色はすこぶるよく、身体も軽かった。
 リシャールは勢いよくアリッサの身体を引き寄せると、確かめるようにギュッと抱く。
「君のせいだ。聖女の力は暴走すると大変なことになるのだろう。マルゴットがそうだったと聞いている。もしやアリッサも……そう考えたら、とても眠るどころじゃなかった」
 リシャールの目尻に涙がにじんでいる。どうやら、とても心配をかけてしまったらしい。
「すみません。でも、私の身体はなんともありませんので」
 アリッサはいつもの彼女らしい飄々とした調子で答える。それを見た彼がふっと泣き笑いみたいな顔になった。
「その無表情をうれしく思ったのは初めてだ。もう俺に笑いかけてほしいとは言わない。アリッサが生きて、そばにいるだけでいい」
(リシャールさまから、こんな言葉をかけていただけるなんて。もう十分だわ)

 アリッサは意を決して彼に向き直る。
「申し訳ありません、リシャールさま。私はもう……あなたのおそばにいることはできません。その資格を失ってしまいました」
(ホリッカ神山の噴火が私のせいとまでは思わないけれど、力の弱った聖女が侯爵の妻でいていいはずがない)
「そうか。残念だが……」
 わかってくれたのだろうと胸を撫でおろしたが、続く言葉はアリッサの想像とは真逆だった。