口元に移り付いた口紅を拭う彼。
そんな仕草一つ取っても色気がある。

微笑ましく見守ってくれるスタッフさん達の視線が気になりつつも、恥ずかしさで顔を覆った。

「ホテルに戻りましょう」

福田さんの声に反応するようにこくこくと頷いて。
フフッと鼻を鳴らす彼。
私は彼の手のひらで転がされてるようだ。

車内に戻り、ホテルへと向かう道中、福田さんと視線が交わった。

「すみませんっ、お見苦しい所をお見せして」
「いえいえ、素敵ですよ、お二人とも」

お世辞だと分かっていても嬉しく感じる。
すると、福田さんは思いがけないことを口にした。

「うちの社長夫妻とよく似ていらっしゃいます」
「そうなんですか?」
「はい。奥様はいつもたじたじなご様子ですから」
「っ……」
「旦那様に愛されるのは、一番の倖せですから」
「……そうですね」

チラッと視線を寄こして来た彼。
それを勘づいた福田さんは、私の耳元に呟いた。

「ご主人様はえな様にメロメロで羨ましいです」
「っ……」

にこっと微笑む彼女を横目に、ちょっと苛立つ彼の手を握った、次の瞬間。

「式は全部終わったし、後は帰るだけだから」
「………はい」
「今夜は満足するまで容赦なく抱くから、覚悟しとけ」
「ッ?!!!!」

耳元に落とされた言葉に恐怖を覚えるんですけど……。
挙式をあげた後って、普通甘く過ごすものじゃないの?
甘い言葉を期待してるわけじゃないけれど。
言葉の通りの彼だから、今から動悸がしちゃうじゃないっ。

「今夜は久しぶりの薔薇鑑賞が楽しみだ」
「っ……」

哲平さん。
どうかお手柔らかにお願いします。
明日、空港内を歩ける程度に―――。

~FIN~