ついさっきまでの挑発するような顔つきではなく、一社会人の先輩としてなのか、柔和な表情で言葉を続ける。

「抱き締めたのは事実ですが、正確には抱き留めたに近いです。無理やり飲まされて酔った彼女が躓いたのを助けただけです」
「……」
「まぁ、抱き心地がよかったのは本当ですけど」
「なっ…」
「俺、バツイチなんですよ。嫁と別れて五年になります。恋愛とかもういいかな?とか思ってたのに、彼女見てたらまた恋するのもいいかな~とか思えて来て。正直、蓮水さんが羨ましいです。若いし家柄もいいしイケメンだし仕事もできて、何よりあんな可愛い奥さんがいて」
「……」
「嫉妬というより羨望に近いかな。彼女が惚れた男がどんな男なのか、知りたくなりまして」
「別に俺は、戸崎さんがいうような人間じゃないですよ。婚約者がいた彼女にずっと片想いしてて、破談になった後もずっと狙ってたような卑怯な男です」
「でも、彼女のハートを射止めたのは貴方でしょ」
「……そうですけど」
「挙式前なんて心に隙ができるのを知っていて、ワンチャンあるかな?とそこに付け入ろうとしたのは事実です。俺の方がよっぽど卑怯でしょ。まぁ、靡きもしませんでしたけど」
「……フフッ、戸崎さんって正直者なんですね」
「よく言われます」

スッと差し出された手。
俺はその手を力一杯握った。

「この会社に就職できてよかったです。貴方のような真っすぐな人が上に立つ人で」
「そのお言葉に恥じぬように邁進します」
「ご結婚、おめでとうございます。お幸せに」
「ありがとうございます。プロジェクトの成功、祈ってます」
「全力を尽くします」