「公爵夫人」

 彼は、わたしの前に立った。

「きみのことだ、ミヨ。公爵夫人は、使用人たちに傅かれてのほほんとすごす存在ではない。そのようなことが出来るのは、小説に出てくる傲慢でわがままなご令嬢だけだ。公爵夫人ともなると……」
「はいはい、わかっています。淹れてくればいいのでしょう?」
「『はい』、は一回でいい。それに、そのイヤイヤな態度はなんだ?」
「あー、もうっ! わたしだってお茶くらい淹れられます。ですが、いつも自分の為の出がらしを淹れているので、アッシュフィールド公爵家の面々が飲むような高価なお茶には縁がなかっただけです」
「であれば、この機会にきちんとした淹れ方だけでなく、茶葉の種類や生産国なども覚えるといい。茶葉の種類によって淹れ方が違うということは……」