夢だと知りつつもわたしは小さく呟くと目から涙が出て来た。たった数時間の出来事を恋しく思うなんておかしな話だ。
 コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。何だろうと思い顔を上げると扉がゆっくりと開いて一人の男性が入って来た。逆光で見えないが、背は高く細身だがしっかりした体付きをしている。小太りの両親とは違う人物にわたしは体を縮める。
 その人物はわたしめがけて歩み寄り、視線を合わせるようにしゃがんで綺麗な顔立ちで声を掛けた。

「愛子、大丈夫かい?」