進藤さんと共に図書館を出て、歩く。彼はさっきからずっと無言だ。かと言って、私から話題を振ることもしない。
 空はまだほんのりと明るさを残している。春が待ち遠しかったのに、今はもう、春なんて来ないような気がしている。隣を歩く進藤さんは、一体今、どんな気持ちでいるんだろう。それに、どこへ向かっているんだろう。この辺りは、比較的私の家に近い。
 
「ここです。着きました」
 進藤さんが足を止めたのは、住宅街の中にある一軒家。二階建てのその家の表札には、「SHINDO」とある。
「あの、ここって……」
「俺の家です」
 やっぱり……。この状況で、進藤さんの自宅へ上がりこむのはどうかと思う。だって奥さんとか、もしかしたら子供もいるかもしれない。上がったりしたら、きっと修羅場が待っている。
「あの、さすがにご自宅はちょっと……」
 進藤さんも進藤さんだ。何を考えているんだろう。
「大丈夫、俺しかいないんで。あ……その、変なことしようとか、全然考えてないんで。そこは信じてください。……勝手ですけど」
「で、でも……。あの、近くにカフェとかあったと思うんで、そこにしません?」
 そう提案してみたものの、進藤さんは応じなかった。
「いや、ここで話したいんです。この家で。不安なら俺、ひなたさんの半径一メートル以内には近づかないんで。だからお願いします」
 どうしてそこまで私を自宅に上げたいのか、さっぱりわからない。この人、大丈夫なんだろうか?
 でも、ここまで言われると断り辛い。
「わかりました……」
 私は、意を決して彼の自宅へ踏み込んだ。