やっぱり進藤さんの口から、本当のことが聞きたい。
 家に帰り着いてから、私は着替えもせずにそのままベッドに倒れ込んだ。仰向けになって天井を見上げる。あり得もしないのに、ほんの一瞬、天井が星空と重なったように見えた。——いつからか、私はずっと星空に囚われている気がする。あの夢を見るようになってからか? あるいは、それ以前からなのか……。
 
「ああっ、駄目だ。やっぱり気になる」
 
 からかわれていただけなら、それでもいい。このまま彼の真意を聞かずにいるのは、やっぱり無理だ。紗織さんの言っていた通り、私にはどうしても進藤さんが人を騙すような人間だと思えない。動物園に行った日の、進藤さんの笑顔や涙が全部嘘だったなんて、信じられない。信じたくない。
 
 ベッドから体を起こすと、無造作に置いていたスマホを手に取る。連絡先から進藤隼汰の名前を探し、受話器のマークをタップした。
 
 
「はい、進藤です」
 
 何度目かのコール音の後、応答があった。いつもと変わらない、落ち着いた進藤さんの声だ。
 
「進藤さん、こんな時間にすみません。遠山です」
 
「いえ、大丈夫ですよ。ひなたさん、どうかされましたか?」
 
「……最近、図書館にいらっしゃらないから。何かあったのかと思って」
 
「ああ、すみません。まだ全然本が読めていないもので」
 
 どうにも嘘臭い。
 
「連絡もくれないし。……あんなこと、あったのに」
 
 彼女でもないくせに、私は何で彼に不満をぶつけているんだろう?
 
「それは……その、ごめんなさい。突然あんなことを、してしまって……。あの後、俺ものすごく反省したんです。いきなり、あんな失礼な……。だから、どんな顔をしてあなたに会えばいいのか、正直わからなくなってしまって」
 
「……理由は、本当にそれだけですか?」
 
「え?」
 
 私は彼に聞こえないよう、深呼吸をした。
 
「進藤さん、私に嘘ついてますよね? だから、私に会うのを避けているんでしょう?」
 
「嘘、って。何のこと?」
 
 あくまでとぼけるつもりなのか。
 
「結婚、されてますよね? でも私に会う時は、必ず指輪を外してる」
 
「…………」
 
「いいんです、別に。そんなの騙された私が悪いんですから」
 
「違います」
 
「でも、理由が知りたくて。どうして進藤さんみたいな素敵な方がわざわざ、よりによって私みたいな図書館に座っているだけのつまらない女を……騙そうと思ったのか」
 
「違う……!」
 
 進藤さんが電話の向こうで大きな声を出したので、少し驚いた。
 
「違うんだ。ああもう……これ以上は限界だな……」
 
 彼が何を言っているのか、さっぱりわからない。今のは独り言?
 
「——ひなたさん。全部、お話しします。だから、もう一度だけチャンスをくれませんか」
 
「…………」
 
「金曜の夜、図書館に行きます。必ず行きます。俺に時間をください」
 
「わかりました……」
 
 彼はその日までに一体どんな言い訳を考えてくるんだろう? それを聞いて、私はどうするんだろう? 許すとか、許さないとか、別にどっちでもいい。
 私は、進藤さんを好きになった自分に、どうにか言い訳をしたいだけなのかもしれない。