しばらく他愛もない話をしているうちに、そろそろ面会時間が終わろうとしていた。

「じゃあ、帰りますね」
「ああ、うん」
「明日は、ここに寄らずに東京に戻ります」
「分かった。気をつけてね」
「はい」

そして沈黙が広がる。

「…そろそろ行かないと」
「うん、そうだな」

そう言いつつ、さくらは立ち上がらない。

やがて、ぽつりと呟いた。

「東京で、北斗さんのこと思い出して、私、どうなるんだろう?何か思うのかな?」
「えっ…、それは、その、なんとも思わないかもしれないってこと?」
「うーん、分かんない。だって、前は北斗さんのこと覚えてなかったから」
「そりゃそうだけど。え、なに?さくらは東京に着いた途端、スイッチ切り替わるみたいに俺のことどうでも良くなるの?」
「なるのかなあ?」

北斗は、ガーンと打ちのめされる。

「そ、そんな。俺なんてこの5年間、さくらのことばかり考えて、毎日毎日胸が苦しかったのに…。そうか、さくらは記憶がないから、なんにも辛い想いはしなかったのか」
「うん」
「う、うんって…」

もはや北斗は、シュンとしおれた雑草のようになる。