電話を切ったあと考える。

(やっぱりおばあちゃん、まだあのこと気にしてるのかな…)

さくらは5年前、大学に入学して初めてのゴールデンウィークに、田舎の祖母の家を1人で訪れた。

3日ほど滞在し、じゃあ東京のアパートに帰るねと言って、そのまま行方不明になったのだ。

そしてその時の記憶が、さくらにはなかった。

祖母の家の近くから、駅へのバスに乗ったつもりが、間違えて反対方向のバスに乗ったことに途中で気づき、慌てて降りたのは覚えている。

そして、まるで何かに導かれるように、目の前に広がる林の中へと足を踏み入れた。

さくらの記憶は、そこでプツリと途切れたままだ。

祖母も親も、てっきりさくらはひとり暮らしのアパートに帰り、大学に通っていると思っていたのだが、さくらは2週間後、祖母の家の隣の県にある総合病院にいた。

連絡を受けて驚いて駆けつけた祖母は、さくらが無事だったことに安心したものの、記憶がないことをひどく気に病んで、今でもさくらを田舎に寄せつけようとしない。

(このままだと、いつまで経ってもおばあちゃんに会えないし…)

そして心の中で決めた。

(明日、おばあちゃんに内緒で行っちゃおう!)