「今あなたは、木と話をしていた。霊力を使ってね。果たしてそれは良い霊なのか、悪い霊なのか、どちらです?」
「な、なんのこと?」
「とぼけても無駄ですよ。言ったでしょう?私は霊能者です。悪い霊を祓うことが、力を授けられた私の使命です」

そう言って、近づいてくる。

「来ないで!」
「そこを退いてください」
「ここには何もないわ、ただの木が並んでいるだけよ」
「それは、私が自分で確かめます」

すると、懐に手を入れた僧侶は、キラリと光る物を取り出した。

さくらは驚いて目を見開く。
それは、小さな鎌だった。

右手で持った鎌を目の高さで構え、狙いを定めてから、僧侶はヒュッと鎌を空に切った。

「やはりこの木は、まやかしですね。目に見える物は信じてはいけない」

そう言うと目を閉じて、更に1歩大きく前に踏み出した。

さくらは、ハッと息を呑んだ。

僧侶は、桜の木に手が届く距離に来ている。
このままもう一度鎌を振れば…

そう思った時、僧侶が再び鎌を宙に構えた。
そして、大きく振り被る。

「やめて!」

両手を広げて桜の木の前に立ちはだかったさくらは、次の瞬間もの凄い勢いで突き飛ばされた。

ザーッと地面に身体を打ち付ける。

(…痛っ)

顔をしかめながら目を開けたさくらは、視界に入ってきた光景に、身体中の血の気が引くのを感じた。