「さくら…」

切なげに眉を寄せて北斗が呼びかける。

「あの時の、別れ際のさくらの顔がずっと忘れられなかった。ごめんな、あんな辛い思いをさせて。俺は、一緒にいても、さくらを笑顔にさせることは出来ない人間なんだって、ずっと自分を責めてきた。5年間、ずっと…」
「北斗さん…」

さくらは、腕を伸ばして北斗の手を両手で包み込む。

「北斗さんは、何も悪くないです。私は北斗さんが、どんなに優しい人か知っています。私を必死に守ろうとしてくれたことも。だからもう自分を責めたりしないで」
「でも俺は、さくらを幸せには出来ないんだ。俺といれば、さくらは大切な家族や友人と離れてしまう。大事な記憶も失くしてしまう。そんなことは、させられない」

こらえ切れずにギュッと拳を握る北斗の手を、更に強くさくらが包む。

「いいえ、私はきっと幸せになります。どんな運命が待っていたとしても、絶対に乗り越えてみせます。北斗さんがそばにいてくれたら、私はなんだって出来る。そう思うんです」
「さくら…」

北斗の目が、じわりと潤む。

「だから今は、素直に喜んで?またこうして会えたことを」

そう言って微笑むさくらを、北斗はギュッと抱きしめる。

「さくら、会いたかった。ずっとずっと。どんなに願っていたか…またこの手に抱きしめたいって」

5年分の北斗の想いがさくらの胸に押し寄せ、心をギュッと切なく掴む。

「北斗さん…」

さくらの目から涙が溢れる。
だがそれは、5年前の悲しみの涙とは違う。

「さくら、あの時本当は君に伝えたかったんだ。好きだって。俺はさくらを、心から愛してる」
「北斗さん…私もあなたのことが大好きです」

北斗は微笑むと、さくらの頬に伝わる涙をそっと拭って、優しくキスをした。

…だが、そんな二人を、またしても過酷な運命が飲み込もうとしていた。