さくらの記憶

真夜中、さくらは妙な胸騒ぎを感じて目を覚ます。

起き上がって辺りの様子をうかがってみても、特に何も変わったことはない。

(気のせいかな……)

そう思ってもう一度ベッドに横になった時だった。

『助けて!』

さくらの頭の中に、あの二人の声が聞こえてきた。

(尊さん?はなさん?)

さくらはベッドから降りると、カーディガンを羽織って階段を下りた。

北斗達を起こさないよう、静かに玄関を開けて外に出る。

(どうしたの?)

桜の木に近づきながら、心の中で語りかけた時だった。

微かに、バキッと何かが割れるような音がして振り返る。

(何かしら……)

静まり返った暗闇に目を凝らしてみても、特に何もない。

だが、さくらは確信していた。
気のせいではなく、何かがおかしいと。

胸元をギュッと掴みながら、神経を研ぎ澄まして様子をうかがう。

次の瞬間、ハッとして屋敷の屋根に目を向けた。

わずかに、屋根から煙が上がっている。

「なんの煙?」

首をひねったが、小さく赤い炎が見えた途端、さくらは玄関に向かって走り出した。

「北斗さん、おじいさん、起きて!火事よ!」

1階の和室を開けて、祖父を抱き起こしていると、2階から北斗が下りてきた。

「さくらちゃん!」
「北斗さん、屋根が燃えてるの。消防車を呼んで!」
「分かった」

さくらは、祖父の腕を支えながら外へ出る。

ここにいて、と祖父を庭の大きな石に座らせると、急いで木の方へ戻る。

さっきは小さな炎だったが、今はメラメラと勢いを増し、屋根の下の部屋へと燃え移ろうとしていた。