さくらの記憶

ひとしきり笑ったあと、北斗は真面目な顔でさくらを見つめた。

「君がここに来たのには、きっと何かの理由があるんだと思う。もしかしたら、これから君の身に何か起こるのかもしれない。今ならまだ間に合う。ここを離れれば君は……」
「北斗さん」

さくらが言葉を遮った。

「私はここを離れません。たとえ何かが起きるのだとしても、私が納得するまでは」
「でも俺は!」

叫ぶように、今度は北斗がさくらの言葉を遮る。

「君を巻き込みたくないんだ。君に何かあっては、後悔してもし切れない。お願いだ、ここから離れてくれないか?」

絞り出すような声で北斗が言うと、さくらはじっと北斗を見つめてから、ゆっくりと首を振った。

「離れるなんてそんな、想像しただけでも、身を切られるように辛いです。北斗さん、私はここを離れません。あの木のそばから、そしてあなたのそばからも離れません。お願いです。私をあなたのそばにいさせて……」

言葉では説明出来ない何かを、さくらは必死に訴えてくる。

北斗はそんなさくらの眼差しから、運命的な繋がりを感じた。

(俺は彼女を必要としている。ずっと今まで、俺は心のどこかで彼女を探していた気がする。そして今は、やっと巡り会えたことに喜びを感じている。間違いない。俺には彼女が必要なんだ)

北斗は、さくらに頷いた。

「分かった。ここにいてくれ。君のことは必ず俺が守るから。何があっても、俺は君を絶対に守る」
「北斗さん……」

さくらは微笑んで小さく頷いた。