警察に確認しても、さくらの捜索願いは出ておらず、仕方なくさくらはそのままここでお世話になることになった。

「俺は、神代 北斗。おじいと二人暮らしなんだ。しばらくはここでのんびり過ごしたらいいよ。とにかく、あまり思い詰めないように、穏やかにね」

そう言って笑いかける北斗に、さくらもホッとして頷く。

二人暮らしの割に屋敷はとても広くて、部屋がいくつあるのか把握出来ないほどだった。

北斗はデパートの外商を呼んで、所持品が何もなかったさくらに、衣類や身の回りの物を揃えてくれた。

さくらはひたすら恐縮し、いずれ記憶が戻れば必ずお支払いしますと言ったが、気にすることはない、と軽く聞き流された。

せめてこれくらいは、と、掃除や料理、洗濯などの家事をする。

北斗は小さな会社を経営しているらしく、朝から昼過ぎまで5時間ほど事務所に出かけて行くが、帰ってくると大抵ダイニングテーブルで仕事をしていた。

コーヒーを持っていくと、ありがとうと、にっこり笑顔を向けてくれる。

さくらは、少しずつ不安や緊張から開放されていった。