(うわ、凄い雨だな)

傘を差しながら、北斗は仕方なく玄関を出る。

絶対に何もないと思うが、祖父にあんなふうに言われた手前、見てこない訳にはいかない。

早くも出来始めた水溜りを避けながら、屋敷の横に広がる林の中へと入って行く。

(大体ザーッて何の音を聞いたんだ?どうせ斜面の土砂が崩れたとか、そんなんじゃ…)

そこまで考えた時、北斗はピタリと足を止めた。

降りしきる雨の中、木のそばにうずくまっている女性を見つける。

「おい、大丈夫かっ?!」

慌てて駆け寄ると、びっしょりと濡れた身体を抱き起こした。

「しっかりしろ!」

傘を放り出して耳元で声をかけると、若い女性はゆっくりと目を開いた。

「良かった…」

安堵した北斗は、もう一度女性の顔を覗き込み、ハッと息を呑んだ。

(…さくら)

思考回路が止まったように、北斗は腕にさくらを抱いたまま、しばらく雨に打たれていた。