さくらの記憶

「うわー、広くて木の香りがして…素敵なリビングですね」

栗林が天井を見上げながら、感嘆の声を上げる。

「どうぞ、ソファでくつろいでいてください。今、お茶淹れますね」
「あ、どうぞお構いなく」

にこやかに栗林に笑顔を向けてから、北斗はキッチンに入る。

すると、すでにさくらと祖父が並んでコーヒーを淹れていた。

「おじいさん、夕飯どうするの?」
「それなんじゃがな。一応シチューは作ったんじゃが、足りるかね?」
「じゃあ、私、あと何品か作りますね」
「いいのかい?さくらちゃん」
「ええ。ここのキッチンの使い勝手はよく覚えてるし。食材何があるかなー?」

くるっと振り向いたさくらは、すぐ後ろにいた北斗に気づく。

「わ!びっくりしたー。今、コーヒー持っていきますね。座っててください」
「いや、さくらこそ座ってなよ。東京から来て疲れてるだろう?」
「ううん、大丈夫。それにここに来ると、家事やりたくなっちゃう。あはは!」

明るく笑ってから、ふとさくらは真剣な顔になった。

「あのね、心配だった記憶なんだけど…」

声を潜めるさくらに、北斗も祖父も顔を近づける。

「私、普段の記憶もここの記憶も、どっちもあるみたい」
「ほんと?!」
「いやー、良かった!」

三人で喜び合う。

「きっと、記憶を失くす必要がなくなったんじゃろうな。これからはさくらちゃんを、無理矢理ここに引き留めることはしないだろう」

北斗も頷く。

「あの木も、さくらのことを信頼してるんだろうな」

さくらも笑顔で頷いた。