「栗林さん」

休憩室の前を通りかかったさくらは、栗林の姿を見つけて声をかける。

「お、さくらちゃん!お疲れ様」

周りにいた女子社員達が、一気にさくらに目を向けるのを感じながら、さくらは栗林に話し出す。

「お疲れ様です。あの、異動の件のお返事をしたくて…」
「あ、そう!じゃあ、場所変えようか」

栗林に続いて休憩室を出ながら、さくらは、背中に痛いほど突き刺さる視線を感じた。

廊下の奥にあるカウンターに並んで座り、周りに人がいないことを確認してから、栗林が切り出す。

「それで、考えはまとまったの?どうするか決まった?」
「はい。私、栗林さんがこれから取り組むお仕事に、とても興味があります。ぜひ、私も携われたらと思っています」
「え?じゃあ…」

栗林の表情が明るくなる。

「でもそれは、栗林さんの側としてではなく、あの土地の住人として関われたらと」

え…?と、栗林は眉根を寄せる。

「さくらちゃん、ごめん。言ってる意味がよく分からないんだけど?」
「私、神代不動産の側から、このお仕事をさせて頂くことになりました。神代さんと結婚して、神代 さくらとして」

は?と、栗林は瞬きをくり返す。

「ちょ、ちょっと待って。神代さんと結婚?それって、夕べの神代社長のこと?」
「はい、そうです」
「いやいや、さくらちゃん。君、昨日会ったばかりの人と結婚するの?」

さくらは、驚きを隠せない栗林に、にっこり笑う。

「いえ。私達、千年前から繋がっているので」
「…は?」

栗林は、もはや理解不能とばかりに固まっていた。