次の日の夜。
帰宅したさくらは、早速北斗にメッセージを送る。

無事に退院し、家に着いたと返事が来て安心する。

『桜の木も元気そうだ。おじいに聞いたよ、さくらが結界を張ってくれたって。ありがとう』

そうか、そんなこともあったっけ、と、さくらは遠い昔の出来事のように思い出す。

(私にとって、あの出来事は現実の世界ではないのかしら?)

最近になって、そんな妙なことを考える。

自分にとっては、東京でのこの生活が基本。

あそこにいた時間は、夢のような思い出へと変わっていくのだろうか。

このままあの木に何も起こらなければ、自分は必要とされず、あの地を訪れることもなくなるのか。

たとえ花びらが北斗の記憶を繋いでくれていても、北斗の気持ちが薄れていったら?

そんな考えが、毎日さくらの頭をよぎった。

北斗が退院してから2週間経つ頃には、メッセージのやり取りは、いつの間にか2、3日に1度になっていた。

やはり、北斗から最初に送ってくることはない。

そして、もう病院ではないのだから、電話で会話をすることだって気軽に出来るはずなのに、1度も電話をしていなかった。

さくらの心の中に、なんとも言えない寂しさが生まれていた。