愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~

屋敷まであともうちょっとというところで
エルマーがユリアーネの手を振りほどいた。

「どうしたの?」
ユリアーネの声が思わず震える。
エルマーは頭が痛いのか、こめかみに手を当てている。
「いや、ご令嬢すまない。私はもう帰らなければ。」
「帰るってどこに?もう深夜も回っているわ。明日の朝帰れば十分じゃない。」
ユリアーネが慌てて引き止めるが、エルマーは帰ろうとする足をとめない。
「陛下が待っているんだ。君の家はそこなんだろう?悪いが私はここで失礼する。楽しい夜をありがとう。」
先ほどまで足元もふらふらだったはずなのに、
エルマーはすたすたと足早に去ってしまった。

「なによこれ・・・」
ユリアーネとキャサリンは茫然と立ち尽くす。
「夜風にあたって、覚醒しちゃったのかな。」
キャサリンがぼそりと呟いた。
「あともうちょっとだったのに。」
「でもジュリー、キス写真は撮れたわ!これじゃ不十分?」
「とりあえず現像出来たら送ってちょうだい。」

計画は未達に終わったが最低限のものはできた。
キス写真があればとりあえずあの女への牽制ぐらいには使えるだろう。
1カ月ほどで現像した写真がキャサリンから送られてきたので、
あとはどのタイミングで使うかだった。