(なんで陛下はヨーゼフ様に公爵という身分をお与えになったの。)
そんな見当違いの恨み言まで考えてしまう。
エルマーが伯爵のままなら、
こんなに悩む必要はなかったかもしれないのに。
私の実家の身分がもう少しでも高かったら、
ユリアーネの牽制も涼しい顔で聞き流せるのに。

「辛いわね。」
ハンナがソフィアの髪を撫でる。
「でも一歩踏み出さないと何も始まらないわよ。エミリアみたいにね。」
「エミリア?」
エミリアは王妃付きの侍女として働いていた同僚だ。
彼女は今、ソフィアと全く違う部門で働いているので、
最近では滅多に逢うことがなかった。

「私も最近聞いたんだけど、エミリアはねアランさんに振り向いてもらうために看護師の勉強を始めたみたいよ。」
ハンナによると、エミリアは国王の許可を得て、
夜間学校に通って看護師の資格を取ろうと猛勉強中だそうだ。
アランは大学を卒業して見習いの医師として王都の診療所で働きだしたところだそうだ。
「好きな人に少しでも近づくために、って健気よね。」
一生懸命なところがエミリアらしいとソフィアも思った。

王城の侍従長の娘であるハンナと、
(エルマー経由で)シュトラウス宰相の推薦を受けたソフィアと違い、
エミリアは何のコネもなく、
熱心な自己アピールで王妃付きの侍女というポストを勝ち取った。
目標のためにどこまでも頑張れるエミリアは本当にすごい。
今回もアランのために一生懸命なのだろう。