スイくんの手が伸びてくる。


 それは、私の腰を引き寄せて。



「……これくらいでもよくないですか?」



 膝の辺りがコツンとくっつくくらいには、至近距離にスイくんがいた。


 もうほとんど一つの布団に二人で入っているような状態だ。


 すごくあったかい。


 安心感に包まれ、勝手に目が閉じていく……



「…………いや」



 だけどそんな夢心地も一瞬。


 光の早さで離れたスイくんが、私を拒絶するように背を向けて深く布団を被る。


 わたしはパチリと瞬きをした。



「いや、ダメですねこれは。ダメでした。危ない」



 お母さんにも、スイくんにも、背中を向けられている。


 私の想像していた川の字とは程遠くなってしまった。


 あーあ、一緒にいるのに、さみしいな……。



「……あの。また明日にしましょう」



 大きな背中から声が飛んできた。



「……え?」

「明日でも、明後日でも。話す時間はたくさんありますから」



 ぶっきらぼうで硬いけど、優しい声。



「だから、今日はもう寝ましょう。おやすみなさい」



 最後に早口を残し、スイくんは何も喋らなくなった。


 私はまだまだ頭が冴えていて眠れそうにない。


 スイくんの広い背中をボーッと眺める。


 明日でも明後日でも……スイくんはいるんだ。


 毎日、たくさんお話していいんだ。


 とくん、とくん。静かになったリビングで、自分の心音だけが鳴り響く。



「うん……おやすみ、スイくん……」



 少し遅れて返事をして、目を閉じた。


 早く。


 早く明日になって。