そんな生活を続けて、少女が身なりでは12歳ばかしになったとき、すでに親である家斉は退位し、それから亡くなった。
50年だ。
生まれて50年が経っても、この子は12歳だと。
「さっさと殺せばよいものを」
牢を見張る男たちは皆、口を揃えてそう言う。
たまに見張り同士が細々と交える会話を聞いて、少女は自然と言葉を覚えていった。
まっくら。
なにも見えない籠のなか。
空を拝むことすら許されない羽のない鳥は、自分がどんな姿をしているのかさえ、見ることができない。
「コロ……す」
コロスって、なんだろう?
それは良いものなのだろうか。
良いもの、悪いもの、その区別すら自分には分からない。
自分は、おれは、ぼくは、わたしは、誰なのだろうか。
「おいお前、きのう吉原に行ったのか?」
「ああ行ったさ。最高だったなあ」
「チッ、羨ましいぜ。次は俺も連れて行ってくれよ」