奈落の果てで、笑った君を。





「只三郎のここ、なにか住んでるの?」



自分のことは何も話さなくていい、俺が話す───と言われていたから、ずっと口は閉じていたけれど。

この世界にはまだまだわたしが知らないものが多すぎるのだ。


ほんの少し目を配っただけで、ほらここに。


自分のことじゃないものならいいんじゃないかと、とうとう口を割った。



「……それは喉仏だよ」


「のどぼとけ…?ぽこんって!かわいいね只三郎!」



広がる沈黙。

尚晴は冷や汗を垂らし、只三郎はじっと射抜いてくる。


と、ぷつりと何かが切れてしまったように細まった眼差し。



「…ふっ、あははっ。私を呼び捨てにし、可愛いなどと言える存在はそうそう居ませんよ」


「…佐々木…さん、」


「なんて子を拾って来てしまったんだい尚晴、ふっ、ははっ」



笑いながら涙を流すなんて、器用な人だなあ。

退かされはしない膝の上。
尚晴とはまた異なる優しさがあった。



「ねえ、どうしておれにはないの?おれも欲しい!」


「…君は女の子だからね。朱花」


「おんなのこ?只三郎は?」


「私は男です。尚晴も男だよ」


「ノブちゃんは?」


「…ぷっ、ノブ、ちゃん…っ、くくっ、ははははっ!」