奈落の果てで、笑った君を。





いろんなことを教えられれば教えられるほど、わたしは瞳を輝かせて。

わたしが教えれば教えるほど、尚晴は険しい顔に変わる。


どうして笑っていられるんだ───、

聞こえない声が、どこからか聞こえてくるような。



「それでね、火事が起こったから…、わたしは檻を蹴って、それで逃げて───…」



ああ、まだ。
まだ、もうちょっとだけ。

眠りたくない。

まだもうちょっとお話していたい。



「あのね…、それでね、空が…すごくきれいで……、風が、きもちよく、て……お日さまが……」



まぶたにそっと、手が翳される。

その撫でるような優しさに、朦朧としていた意識に加速がかかった。



「安心しろ。ここはもう安全だ」



このあと大雨が降って、洗った着物が乾かなくて。

余計に身体が冷えて熱が下がらなくて、むしろ上がっちゃって。


なんて、そんな都合の良いことが起きないかなあ。


わたしはまだ尚晴に教えてもらいたいことがたくさんある。

どうしてこの名前をつけてくれたの?って、今のいちばんはそれが聞きたいかもしれない。


朱花、


とても、とてもいい名前だね───…。