奈落の果てで、笑った君を。





あすか……?
それはだれのこと…?


動きが止まったのは尚晴が物理的にも押さえてきたからではなく、知らない名前がつぶやかれたから。



「…お前の名前だ。今日から朱花という名で生きろ」


「わたし、の…?わたしは名前なんかいらないよ?」


「それは不便だと言ったはずだ」


「ううん!そんなことない。そのほうがみんな好きなように呼ぶもん」


「…お前という存在はせっかく生きているのだから…、あったほうがいい」



どちらも譲らない言い合いに、クスクスとこぼしたのは土鍋を床に置いた男性だった。



「僕は今井 信郎(いまい のぶお)。みんなからは“ノブさん”なんて呼ばれているんだ」


「……ノブちゃん!」


「ふふ、それもまたいいね。そうやって呼ばれると嬉しいんだよすごく。
ということを、忽那くんは言っているんじゃないかな」



それだけ言って、ノブちゃんは部屋を出て行った。