奈落の果てで、笑った君を。





「まだ寒いぞ。朱花がここにいると、俺も温かいんだ」



ううん、ちがうよ。

ちがうの、そうじゃなくて。




「もういいよ。もう……お家に帰りたい」




息が詰まるような、呼吸の仕方を一瞬だけ忘れてしまったような。

わたしの言葉を聞いた彼の反応は、そんなふうにとても分かりやすかった。


暗闇のなかでもその瞳が動揺しているのがよく見える。


そういえば初めて出会ったときもそうだったなあ…。

尚晴、わたしを見て泣きそうな顔してたね。



「朱花の家は…、見廻組だろう」


「ううん。暗い暗い牢のなかだよ」


「ちがう。格好つけているわりには本当は賑やかでうるさいことを好む、あの見廻組だ」



えへへっと、場違いな声がこぼれた。



「…楽しかった!」



いろんな経験ができた。
いろんなことを知ることができた。

家族を知らないわたしでも、家族ってこういうものなのかなって思うことができた。



「わたし、降伏する」



笑う。

尚晴が、みんなが好きだと言ってくれた笑顔で、笑う。