その周りをコバエが飛び交っては、何度払ったとしても、どこから出てくるのか一向に減る気配がない。
あまり驚かせたくはなかったから、ほんの軽く話しかけてみた。
「おじいさん、そこの川にぼくと一緒に入ろうよ。今は暖かいからきっと気持ちいいよ」
冷たい、寒い、暖かい、気持ちがいい。
そう感じることも、ぼくにとっては幸せそのものだった。
「そいつはもうとっくに死んでおるぞ」
「え?」
「触らぬほうがよい。ウジ虫だらけじゃ」
そう声をかけてきたのは、これもまた細い身体つきをした老人だった。
「ワシもあと数年で同じ道をたどる」
「…これが、シヌってこと?」
「そうじゃよ」
よく、わからない。
じゃあこの死んだ老人は、どこへ行くんだろう。どこへ行ったんだろう。
もう2度と起きないならば、違う場所で生きているということだろうか。
それとも、どこに生きるわけでもなく、完全に消滅したということだろうか。



