奈落の果てで、笑った君を。





「帰ってください。ここは官庁街を警備する見廻組の屯所です。裁くなら奉行所を通してもらえますー?」


「おいっ、生意気な口を利くな…!!」


「だからあんた達がすることはね、徳川幕府に“なに腰引いてんだ馬鹿野郎”って言うことくらいなんですよ」


「なっ、徳川に仕えておきながら無礼だぞ貴様ァ!!」


「どっちが無礼なんだよ!!!」



離れていたわたしですら肩をびくつかせるほど、その声が桂 早乃助のものだとは思えなかった。



「…って、言ってんですよ俺たちはさっきから」



誰かひとりが刀を抜いた音。

男たちがざわっと喉を鳴らせ、ここまで届いてくる殺気。


大きな戦がすぐそばまで来ているというのに、ここで小さな戦を重ねようとしていた。



「おねがい尚晴…、これはわたしの……っ、徳川の問題だから!!!」


「っ、朱花…!」



緩まった隙間を抜けるように、わたしは走った。


そこに尾張藩だけじゃなく、もしかすると徳川の人間が誰か居るんじゃないか。

遠い血の繋がった身内とまではいかなくとも、わたしをいつも見張っていた誰かが。