「ワシに…、友を……撃て…、言うがか……」
「っ……」
「そがな…酷(こく)な、こと……、させんで……くれき…」
こんな男を前にして、まだ友と言ってくれるのか。
あんたを殺そうとした男なんだ俺は。
友を裏切ったような男だ。
震える手で龍馬さんの手に重ねた俺へと、力なき最期の言葉が贈られる。
「ワシゃあ……何にも…負けん、でっかい…、国を……、作りた…かった…、だけ……、ぜ…よ」
本当にこの男は、幕府を終わらせる取っかかりを作ってしまった。
敵対していた大きな勢力をまとめ上げてしまった。
まだまだ俺はあなたが動かす世の中を見てみたかった。
そして俺と朱花に、海の先に広がる世界を見せて欲しかった。
俺だって龍馬さんと一緒にそんな世界を見たかった。
「───…りょうま……さん……?っ、ああ…もう……、クソ…ッ、……ちくしょう…っ」
のちに今日の出来事は“近江屋事件”と呼ばれ、世に広まった。
ただ実際に暗殺した人間が見廻組だという情報は一切漏洩することなく、憶測だけが世間には浸透していった。
そしてその後、しばらく不在となっていた徳川幕府の頂点には15代目となる慶喜(よしのぶ)が就き、また市民を困惑させた。
ここから大きく世の中は動いてゆく───。
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