奈落の果てで、笑った君を。





「…2階で間違いないようですね」



全員揃って口元を隠したと同時、早乃助さんが確信した一言を発した。


ここは醤油屋。

もともと飲み屋ではないこの店に飯を食べにやって来る者は、常連しかいない。



「ん…?申し訳あらしまへんが、今日はもういっぱいどす」



奥の作業場から顔を覗かせた店主が、不思議そうな顔をして向かってくる。



「私たちは松代(まつしろ)藩の者なのですが、坂本様はいらっしゃいますか?応接を頼みたいのですが…」


「あら、そうやったんどすか。ちょいとお待ち頂けますさかい」


「ええ」



さらっと嘘を言ったのは与頭だった。


覆面は寒さを凌いでいると勘違いした店主は疑いもせず「坂本はーん!お客様どす~」と、いきなり暗殺的である男へと声をかけてしまったが、俺たちに焦りは無かった。



「客…?誰だ…?俺たちは誰も呼んでいないぞ」


「松代藩の方が見えてはりますえ」



暗闇の広がる2階から見下ろしてくる人物はきっと、坂本 龍馬の用心棒として身を置いている山田 藤吉という名の力士だろう。