奈落の果てで、笑った君を。





「しょうせいっ、もうやだ…!さ、さむい!」


「うぐ……ッ!!!」


「……あれっ?軽くなった!」



それはわたしに覆い被さっていた彼が瞬時に退いたからだ。

なぜそうなったかというと、手が使えないぶん足をバタバタと動かしていて。


その足がたまたま尚晴の股あたりに直撃したとき。


わたしの身体は軽くなり、そばにはうずくまっている尚晴。



「尚晴?だいじょうぶ?」


「っ…、ッ、……問題、ない」


「痛そうだよ?」


「………知らないで蹴ったのか…」


「なにを?」



いつもどおり答えると、苦笑いの尚晴はちょっとだけ落ち込んでいるみたいだった。



「悪い、もう当分はしない」



とうぶん…。

じゃあまたいつかはするってこと…?



「たぶんしたら……次こそ抑えられそうにない」



と、静かに付け足した尚晴は。

また鼻から血を流していた。


いろいろあった里帰りはこうして幕を閉じ、相模国を出る翌日。



「またいつでも来なさい」


「次は泰晴(たいせい)にも会えるといいわね」


「たいせ?」


「朱花がまだ会っていないほうの兄だ」


「会いたいっ」