奈落の果てで、笑った君を。





「尚晴、ぎゅってするっ」



瞳を微かに開かせた尚晴は、わたしがするよりも前に抱きしめてくれた。



「……いつか俺は嫌われてしまうな」


「…え?」


「俺のほうが早く年老いてしまう」



顔が見えないぶん、想像を働かせた。

苦しい顔、してる?
また泣きそうな顔、してるの?



「じゃあもう尚晴は…とっくにわたしのことが嫌いになっちゃってる」


「…なぜだ」


「だってわたし、もう70歳過ぎてるもん」



見た目は年老いてないから感覚ではそう思わないかもだけど、実際はおばあちゃんだ。

尚晴が生まれるよりもずっとずっと昔に生まれてる。



「…関係ない。俺は、朱花だから好きなんだ」


「うんっ。わたしも同じ!」



その言葉が欲しかった。

きっと尚晴はそう言ってくれるって分かっていたから、今のわたしの笑顔と言葉だって嘘偽りなく返せたんだよ。


ぎゅうっと、腕の力が込められた。