奈落の果てで、笑った君を。





少し遅くなりすぎてしまったか。

ここまでかけて帰宅する予定ではなかったが、あの男と話していると時間でさえ忘れてしまう。



「朱花、」


「うん?」


「……このあたりは…道が荒い」


「平気だよ?裸足じゃないから!」


「…いや、転んだら…危ないんだ」



差し出した右手。

言葉っ足らずな俺に茶々を入れてくるものは、秋に鳴く虫たちの音色。



「手、つなぎたいの?」


「っ、いや…その…、………。」



こくり。

朱花に嘘というものを教えたくはないため、俺は首を縦に落とした。



「ふふっ、真っ赤!」


「…夕日だ」


「もう暮れかかってるよ?」


「……気のせいだ」


「あははっ」



母さんにため息を吐かれた気持ちがようやく自分でも分かった。

俺はもしかすると、本当に伝えなければいけない大事なときにすら伝えられないんじゃないか。


それはさすがに勘弁してほしいと思いながら、朱花の手を握り返す。




「───…なぜ……あの娘が……、」




そのときすれ違った瞬間の声に。


俺は、気づけなかった。