奈落の果てで、笑った君を。





「朱花、今は隠さなくていいぞ」


「えっ、いいの?」


「そこまで遠くには行かないつもりだ。それに……化粧を、しているからな」



朱花に覆面をさせたのは、俺と佐々木さんだった。

どこで誰が見ているか分からない。

江戸ではなくとも、幕府の使いがどこかに歩いているかもしれない。


気は抜けない旅路だった。

でも、今だけは。


顔を覆う布を取っ払って見せてくれる笑顔ひとつで、許されたような気持ちになる。



「尚晴、ここはなに?」


「…墓だ」


「ハカ?」



まず俺が朱花を連れてきた場所は、とある人物が眠る場所。

これは俺が背負いつづける過去の罪。



「…ここに、俺の兄さんがひとり眠っている」


「え、そうなの?この石に?どうして?」


「……死んだんだ」



空気を悟られるよりは、なにも分かっていない質問のほうがどうしてか心が軽かった。


ポツリポツリと、ひとつひとつを朱花に教えてゆく。


俺にはふたりの兄がいること。

けれどそのうちのひとりは、今ここに眠っていること。