奈落の果てで、笑った君を。





「すぐ終わるから先に玄関で待ってなさい尚晴。朱花ちゃんはこっちにおいで」


「なにするの?」


「ふふふ、秘密~」



ふたりして奥の部屋へと消えてゆく。

そんな背中は、いつかの未来を想像させた。


あんなふうに母親と朱花が仲睦まじそうに笑う未来、今朝のように勝手場で笑いあっている未来。


きっとそんなものは、幸せなのだろう。



「これいっぱい走れないよ?」


「今日は我慢よ~」



しばらくして戻ってきた朱花を見つめた瞬間、俺の思考は停止する。



「ほら見て朱花ちゃん。尚晴ってば、朱花ちゃんが可愛くなりすぎちゃったからびっくりして固まってるわ」


「しょうせい?だいじょうぶ?」


「………」



女物の着物は母さんのお下がり。

いつも低い位置でちょこんと気持ち程度に結われていた髪はほどかれ、謙虚な髪飾りがひとつ。


ほどよく色をつけられた化粧は、普段の活発な少女を変貌させていた。



「しっかり守ってやんなさいね、尚晴」


「……ああ」



可愛い、とても似合っている。

そう言いたい本心は、平常心を保つだけでいっぱいいっぱいだった。