奈落の果てで、笑った君を。





そんなことを当たり前のようにまっすぐ言い放ってしまうところ。

俺が朱花に惹かれた部分をわざわざ言葉にしろと言われたなら、俺はきっとそう答えるだろう。



「…それは頼もしいな」


「うん!」



父さんはあんな顔をするのか。

俺にすらあまり見せない顔を、朱花は簡単に引き出せてしまう。



「尚晴っ、お散歩に行きたい!」



それから正午に差し掛かった頃。

この数日間まったり過ごしていた少女は、とうとう鼻緒が切れるように俺に言ってきた。



「そうね。少し気分転換にでも行ってきたらどう?」



母さんに提案されるまでもなく、俺はすでに腰を上げていた。



「そうだな。行こう」


「はやく!はやくっ」



この少女にとって散歩とは、生きること同様。

備わっているのに何も映せなかった目。
備わっているのに動かせなかった手足。


それを思う存分つかうことができる、今。



「あ。ちょっと待って朱花ちゃん」


「え?」



止めたのは、母さん。

なにかを企んでいる顔は息子だからこそ分かるものだった。