奈落の果てで、笑った君を。





「あっ、尚晴おはよう!」


「…おはよう」


「なあに~、昔は自分から起きてきたことなんてなかったのに。見廻組さんには様々ね」


「…うるさい」



「お母さんにうるさいって言っちゃダメ!」などと言ってくる叱りの言葉すら、俺に深い愛しさと幸せを与えてくれる。


薩摩藩と長州藩が手を組み、交わした同盟。

そんな情報は役人だけでなく町人にも届いているはずだというのに、ここだけ見れば平和が広がっていた。



「尚晴っ、味見して?」



うしろから抱きすくめたい。

母親がいなかったらもちろんしていただろう俺は、欲望を抑えながら隣に立つ。



「…ん、うまい」


「えへへ、やった!」



俺たちは恋仲かと聞かれると、素直には答えられない。

確かに朱花は俺のことがいちばん好きだと言ってくれて、俺に恋煩いをしているとも断言している。


俺にとっても……朱花は誰よりも何よりも特別な存在だ。


だとしてもハッキリ形にしているわけではなく、俺の気持ちが朱花に伝わっているかどうかも不安はあった。