奈落の果てで、笑った君を。

尚晴side




実家のはずなのに落ち着かなかった。

下宿先である京の屯所で暮らしていると、賑やかで忙しい足音があったほうが朝だと思うようになっていて。



「あすか…?」



そうだ、この部屋で一緒に寝たんだったか。


母さんも父さんも朱花と俺は恋仲だと思っているらしく、当たり前のように布団は隣に敷いてあった昨夜。

だとしても昨夜の朱花は長旅の疲れからか居間で寝てしまい、俺がここまで運んだのだが。


そして目が覚めた朝、隣に寝ていた少女の姿はなく。


いつもなら焦るのだが、勝手場から聞こえた黄色い声に、二度寝したい気分はすぐに消えた。



「朱花ちゃん、お味噌溶いてもらってもいーい?」


「うんっ」


「あらあ、手際がいい!これは素敵なお嫁さんになれちゃうわ~」


「ノブちゃんに教えてもらったの!」



……なんだこの幸せすぎる絵面は。

夢なんじゃないか。
いや、夢であって欲しくはない。


自分の頬を強めにつねっては、痛みを感じたことに広がる喜び。