奈落の果てで、笑った君を。





と、わたしたちの会話を聞いていたらしいお父さんは。

スッと何も言わず立ち上がると、部屋を出ていってしまった。



「あれ…?わたし嫌われちゃった…?」


「……いや、たぶん違うと思う」



でも出て行っちゃったよ…?

わたしって気づかないところで嫌われていたりするから、今もそうなのかもしれない。


ちょっとだけ不安に思っていると、スタスタと再び現れたお父さんの手には何かが乗ったお皿。



「“かすていら”は好きか」


「かすていら…?食べたことない…」


「そうか。なら食ってみろ」


「うんっ!ありがと!」



差し出されたふわふわしたお菓子を一切れ、口に運んでみる。

しっとり、ふわっ、初めての食感がわたしを笑顔にさせた。



「おいしいっ!もう1個いい?」


「…ふっ、好きなだけ食うといい」


「ありがとおじさんっ」



やっぱり尚晴だ。

わかりにくい優しさというか、素直じゃない優しさというか。


言葉にすることが苦手なぶん、行動で示してくれるところ。



「たのしいなあ…、いいなあ」



無意識にもわたしはそんなことを言っていたみたいで、一瞬だけ周りは静まった。