もしかすると迷っているのかもしれない。
……いや、朱花のことだ。
途中で興味が湧くものを見つけてしまえば意識など向いてしまうだろう。
この場所は、目にするものすべてが初めてなのだから。
「他は何か言っていたか。些細なことでもいい」
「い、いえ…、言うてまへん」
「…そうか」
この女は酒でも呑んでいるのか?
なぜ俺に肩を掴まれただけで頬を赤く染めるんだ。
「あ、すまない。痛かったか」
「ちゃ、ちゃいます…、あの、殿方様のお名前を教えとぉくれやす」
「悪い。今はそれどころじゃないんだ」
すると今度は泣きそうに瞳と唇が震え始めた。
女はよく分からないな…と、そっと肩から手を離すと、それを見ていた男が笑う。
「こりゃ駄目だわー。まったく分かってないねー」
「…なにがですか」
「まあ頑張って。尚晴の場合は相手の女の子もかなーり変わってるから逆に良かったりするかもだし?」
それが誰のことを言っているかだけは理解できた俺は、こんなことをしている場合ではないと思い出す。



