「それで蕪木、例の話は本当なのか」
「ああ。誰があんな話を飲むというんだ」
襖の前、気配を消して聞き耳を立てた。
周りの部屋から聞こえてくる三味線や琴が正直邪魔でしかないが、逆に俺たちの呼吸音を隠してもくれる。
「薩摩と長州に同盟を組ませる、など。そんなものは無理な話だ」
「まったくだ。あいつの考えていることはよく分からん」
薩摩と長州が同盟…。
なんのためにそんなことをしようとしている人間がいるのか。
戦を終わらせるためか?
それとも、この国を統括する新たな組織を作るためか?
「馬鹿な話だ。政権を幕府から朝廷へ返すなど」
「ありえない。徳川を終わらすと?」
「そういうことだ」
思わず早乃助さんと目を合わせる。
互いに驚くほどかっ開いては、瞳孔までもが開ききっていた。
政権を、幕府から朝廷へ返す……?
まずそんなことができるのか。
だとすれば、そいつにはどこまで権力があるんだという話だ。
最も強力な力を持っていると言われる薩摩潘と長州潘を組ませ、徳川に楯突くなど。
「確かそいつは土佐潘を脱藩したんだろう?」
「らしいな。俺も詳しくは知らねェが、とにかくうるさい男だ」



