奈落の果てで、笑った君を。





部屋の前、数人の足音と声。

すぐに俺と早乃助さんは察し、芸者には演奏を続けてもらったまま部屋を出ようと立ち上がる。


が、朱花の存在を忘れてはならない。



「朱花、俺たちのご飯もあげるー」


「えっ、ありがと桂!」


「だからちょーっといい子にしてられる?」


「うんっ」


「絶対ここを動いちゃ駄目だからね?わかった?」


「わかった!」



本当に大丈夫だろうか。

佐々木さんは少しも目を離すなと、そう命令してきていたのだ。



「はいじゃあ俺がいま言ったこと、繰り返してどうぞ」


「明日からも桂のご飯ぜんぶ食べていいって!」


「おい馬鹿。悲しいこと言うとさ、わりといつもそうだから。
不思議なことに俺が楽しみに残しておいたおかずは大体どこかのクソガキに食べられるんだよ」



そんな茶番を繰り返しつつ、早乃助さんは朱花の額を軽く小突いてから、真面目な顔で俺へと視線を移した。



「俺たちが大事な情報だけを聞き取ってソッコー戻ってくればいいだけ。よし、行こうか尚晴」


「…わかりました」



この人は二面性のかたまりだ。

通らないだろうと思う理屈ですら通してしまうような男。


先ほど新撰組を使っては誤魔化したときだって、あんなこと俺には考えつきもしなかった。