もくもくと上った黒い雲でどうなっているかよく見えない、大きなお城。
「火が出てね、逃げてきたの」
「ちょ、ちょっと……冗談やめなさいよ」
「ほんとだよ?」
頬に付着した灰をぐいっと拭うと、女は何かを察知したのか急によそよそしくなってしまった。
どうして?と首を傾げていると、優しめに肩を掴んでくる。
「ほ、本当の本当に…将軍様のお城にいたの…?」
「うん。牢屋にずっといたけど、逃げてきた」
「…牢屋…?」
起きているのか、寝ているのか。
生きているのか、そうじゃないのか。
そんな曖昧な日々を70年過ごしていた。
「…あんた…、なにか悪いこと、したの…?」
「ううん。気づいたときには、真っ暗」
「にっ、逃げなさい…!!」
「だから逃げてきたの」
「違うわ…!!ここの江戸からも出なくちゃダメ…!!」
それまでの眼差しが、突如変わった。
背中に乗った赤子が大きな口を開けて泣いたとしても、女は構うことすらしない。



