「…ううん。私こそごめんなさい…」
「怒ってる?」
「…怒っていないよ。でも、もうやめてね。気持ち悪いもの」
「うんっ」
喜ばせたかった。
喜んでくれると思っていた。
でも人それぞれ好きなものや嫌いなものがあるんだと。
私はまたここで、新しいことを知った。
「そう言われて喧嘩にならないのって朱花だからだよねー」と、背中を向けて行った桂はつぶやく。
「朱花、ちょっと来てくれ」
「尚晴?どうしたの?」
その日の夜だった。
提灯を手にした尚晴は、寝ようとしていたわたしを連れて中庭に案内してくれる。
ハッちゃんは屯所に泊まるわけではない。
歩いて通える距離に家はあると言うから、日中のお仕事を終えたらそのまま帰っていく。
だから今までのようにふたりきりの夜。
「どのあたりに置いた?」
「なに、が…?」
「お前が捕ってきたセミの脱け殻だ」
「あっ!それはね、こっち!」



